NO.3 自分自身のエゴのために

  自分自身のエゴのために


  幼い頃、女の子の格好がイヤでイヤでしょうがなかった。
  赤い服より青い服、人形よりもロボットや車のおもちゃが欲しくてよくダダをこねていた。
  そうやって拗ねていると、母さんが私をギュッと抱きしめて頭を撫でてくれた。
  「ごめんね」と言いながら、とても悲しそうな顔をしていたのを今でも覚えている。。
  女の子の格好をすることよりも、母さんのそんな顔を見るほうがイヤだったから・・・
  母さんには いつでも微笑んでて欲しかったから・・・
  だから、それ以来私はこの格好をイヤだと言わなくなった。


  中二のとき母さんが死んで、溜まってた鬱憤が爆発した。
  母さんがいなくなってしまった今、無理してこの格好でいる気になれなかった。
  それに、当然声変わりもするし外見を誤魔化すのももっと辛くなってくる。
  外見的にも、精神的にも。
  私は「いつまでこの馬鹿げた格好をさせるつもりなんだっ!!」と、父さんに食ってかかった。


  ------そのとき初めて自分が女の子として育てられた理由を聞いた。
  三尾神社の言い伝え。
  「能力を保つため 男の子供は1人しか儲けてはならない」
  だから私を女の子として育てたのだと。
  馬鹿馬鹿しいと思った。
  そんな言い伝えのために今まで自分は苦しんできたのかと腹立たしくなった。
  「百歩譲ってその言い伝えが本当だったとしても、
  外見を誤魔化したからって神様に通用するはず無いじゃないか!」と怒鳴った。
  父さんはしばらくの沈黙の後、ゆっくりと話し始めた。
  「わかってる。それは人の目を誤魔化すためだから。
  言い伝えを破ったと親族に知れたら、お前たち傷つけるかもしれないから。」と
  「だったら、私はこの神社を出て行く。黒兎が神社を継ぐんでしょ?」
  女として育てられた私がこの神社を出てしまってもなんら問題はないだろう。
  黒兎と離れるのは寂しいけれど、会いたくなればこっそり会いに来ればいい。
  だが、父さんは首を横に振った。
  「能力から察するに、長男である白兎に当主の能力が受け継がれているのは
  間違いない。」
  「え・・・でも」
  悔しいけど、私よりも黒兎のほうが能力的に優れてる・・・
  私の言いたいことがわかったのか、父さんは言葉を続ける。
  「黒兎の能力は、確かに白兎より目を見張る物がある。
  だが、父さんの能力とは波長が極端に異なるんだ・・・」
  「・・・言い伝えを破ったことと関係がある?」
  「父さんは関係があると思ってる。
  そのことをずっと調べているんだがまだなにも収穫が無くてな・・・」
  父さんはすまなそうに視線を落とした。
  「このことを黒兎は・・・?」
  「言い伝えも、能力が異質なことも話していない。」
  「そっか・・・」
  異質な能力だと親族にばれたら、黒兎は異端者の烙印を押されるに違いない。
  それだけで済むだろうか・・・
  

  「父さん、私 やっぱりここに残るよ。」
  気づいてしまった・・・
  黒兎がいなくなることの恐怖が、こんなにも自分を追い詰めていることを。
  黒兎を守らなければ!守らなければ!!守らなければ!!!
  大切な片割れを。
  黒兎を守るためなら、なんだってする。
  黒兎を傷つけるものは許さない。
  もう黒兎の笑顔だけが、私の最後の心のよりどころだから・・・



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